コンテナとチョコレート|輸送コストを考える
チョコレートの原料は、カカオです。
カカオの生育に適しているのは、高温多湿で、平均気温が27℃以上、年間降水量2,000㎜以上の地域。赤道を挟んで南北の緯度が20度以内。
その地域の気温ではココアバターが固まらないので、カカオの産地を離れ、遠い異国でチョコレートは製造されています。
赤道付近から運んでいるので、輸送コストが高くつきそうなもの。なのに、安価で手に入る物も……。
「児童労働で云々」と言いたい人もいるでしょうが、このページで取り上げるのは「コンテナ」です。つまりは、輸送コストの話。
荷役の変化
上の動画では、鉄道輸送に「パレット」が使われている様子が映されています。
また、そのパレットが登場する前には、荷物を1つずつ担いで船に載せる映像も見られます。
積み荷を降ろしたり、載せたりする作業は、それだけ人と時間を費やすもの。つまりは、費用が掛かる作業でした。
貨物を載せる平らな荷台。すのこ状の台。
輸送コスト
シカゴからナンシー(フランス)に送られた医薬品トラック1台分の運賃。1960年推定値。
項目名 金額(ドル) 比率 工場から積出港までの陸上運賃 341 14.3% 横持ち費用 85 4.0% 荷役その他 1,163 48.7% 海上運賃 581 24.4% 欧州での陸上運賃 206 8.6%
工場で作った物を陸路で運ぶコスト、荷役のコスト、海上を運ぶコスト、到着先の陸路を運ぶコスト。こういったコストの中で、大部分を荷役が占めています。積み荷を載せたり、降ろしたりするのに、お金が掛かっているという話。
逆に言えば、そこを抑えられれば、価格はグッと下がるわけですね。
物流用語。業界によって意味は異なりますが、拠点間における利益を生まない輸送。
製造元の工場から港に行くのではなく、配送センターなどに寄るケース。
項目名 | 名称・数値 | 備考 |
---|---|---|
積地 | New York, United States | ニューヨーク |
向け地 | Marseilles, France | マルセイユ |
輸送手段 | Containerized | コンテナリゼーション |
貨物の中身 | Health&Medical Supplies | 医薬品相当 |
商品の総額 | $1,000 | - |
コンテナの種類 | 40FT(FCL) | - |
危険物・海上保険 | なし | - |
費用 | $1,152.72 - $1,274.06 | - |
上の表のデータは、先の『シカゴからナンシー(フランス)に送られた医薬品トラック1台分の運賃』と比較すために、「World Freight Rates」というサイトで出した輸送コストです。
シカゴはコンテナ港として微妙なので、積地をニューヨークに変更し、フランスのナンシーは内陸なので、使うとしたらマルセイユ港かと思い、上記のような区間に設定しています。
当時とは物価の差があるでしょうが、荷役のコストだけで向こうに運べそうですね。似たようなものを同じ距離だけ運ぶとしても。
物価の差は、アメリカの「消費者物価指数(CPI)」の推移を見れば、少しは把握できるかも……。1957年の商品価格なら、「HowStuffWorks」で確認可能です。
港湾労働者
「荷役」を担うのは、港湾労働者と呼ばれる人たちです。
中でも、貨物の積み降ろし作業をする人は、「沖仲仕」と言われていました。
1954年制作のアメリカ映画『波止場』の主人公は、波止場で荷役をする日雇い労働者。「イメージとしては、これかな」と思い、動画を紹介しています。
その沖仲仕たちが、木製のパレットに箱などを載せ、ウィンチで釣りあげて移動し、積み降ろし作業を行っていました。
天候に関係なく肉体労働を強いられますし、雨で濡れたタラップが滑ったり、釣りあげられた貨物がぶつかることもあったでしょう。マルセイユでは、1947~57年の間に、港湾労働者47名が作業中に死亡しています。
他の港でも事故の発生件数や割合は高く、怪我をする確率は建設業の3倍、一般製造業の8倍だったとか。
その上、運ぶ荷物があるかどうか、その日になってみないとわからないので、朝早くに埠頭に集まって仕事にありつこうとする日々……。
この日雇い仕事が労働組合の設立によって変化し、場所によっては常勤労働者となったり、ランクによる割り当てになったりしました。
沖仲仕組合は排他的で、組合員の親族にのみ職を確保したので、世襲制と揶揄されることも……。
危険、不安定、世襲、それでも仕事を求めて港に集まってくるのは、平均的な肉体労働者より賃金が高かったからでしょう。1950年にイギリスで行われた調査によると、沖仲仕の評価は30種類の労働の中で下から2番目でした。なお、最下位は道路清掃人。
コンテナ革命
先の動画でも確認できますが、どんな荷物が運ばれてきて、どこに積むのかというチェックも、荷役の仕事のうち。単純に、港での積み込みは、人手が必要な作業でした。
事故が多かったり、荷物を盗むケースも多かったりと、労働環境としては「健全」から程遠い……。
言ってしまえば、荒くれ者が多い場所だった港。そこに、新しいものを導入するのは、容易なことではありません。
労働者のストライキ、既得権益を持つ者の妨害、港の管理者の無理解など、クリアすべきポイントは多々あったでしょう。でも、コンテナは導入され、港はコンテナ港と変貌していくのです。
さらには、コンテナの規格統一。コンテナを運ぶのに適した船の登場。コンテナのサイズに合わせたトラックのシャーシに列車の車両と、すべてはコンテナを運ぶことを軸に変化していきます。
その経緯は、先の引用元を読んでもらうとして、取り敢えずは上の写真を見て、コンテナの積み下ろしを想像してみてください。人力でやるより、早くて楽そうでしょう?
コンテナ港とガントリークレーン
港のキリン。それが、ガントリークレーン。
このクレーンで、トラックが運んでくるコンテナ、船が運んでくるコンテナの揚げ積みを行います。
クレーンの運転士は高い場所にある運転室で操縦し、吊り具の付いたトロリーを動かします。コンテナの真上まで移動させたら、吊り具をコンテナに固定して吊り上げ、別の場所まで運ぶ……。
どのコンテナをどこに移動させるのか。どの順番で行うのか。それは荷役プランナーとコンピュータの仕事。指示された番号のコンテナを、指定された場所から場所へと移動させる……。
積み下ろしをするたびに、「あれはどこ?」とか、「また、積み直さないと」とか、「奥にあるのを出すために、手前のを出さないと」といった問題は減少しました。
コンテナ単位で運び先が決まっているので、目的地に着くまで中身を見ない。中身を点検しようにも、コンテナの扉を開ければ、そこにあるのは段ボール箱の山。チェックする気も起きないというもの。
それは、不正な品物を運ぶ格好の手段という側面も……。
なお、高所でクレーン操作する港もありますが、オペレーターがコントロールルームで遠隔操作する港が増えました。
世界のコンテナ取扱個数上位20港のうち、2014年時点で15港(75%)が自働化を導入(予定含む)している状況。
自動車を運ぶ船
コンテナが適さない貨物は、それを運ぶのに適した船を用います。
写真は「TRANS FUTURE 7」という船舶で、6,000台のコロナ車が積載可能。
余談ですが、日本船舶海洋工学会が、シップ・オブ・ザ・イヤーを決めています。日本で建造された話題の船舶の中から、技術的・芸術的・社会的に優れた船を選ぶ賞になります。
「船が好き」または「興味を持った」人向けに紹介してみました。
チョコレートとコンテナ
さて、本題のチョコレートの価格です。
まず、チョコレートにコンテナが関係していることを知るために、次の文章を紹介します。
カカオ豆は、麻(ジュート)袋に入れられ、各国の厳しい基準に基づいて検査し、合格したものが輸出されます。一袋の重量は60キロが標準です。
船積みの多くはコンテナーです。西アフリカや中南米の産地から日本までは約1ヵ月を要します。ヨーロッパ向けの大量輸送では、バラ積が増えています。
カカオ豆の輸送に、コンテナが使われています。
麻袋に入れられたカカオ豆の姿は、他のサイトでも確認可能です。
カカオ豆が入った麻袋をコンテナに
チョコレートの価格
No.1761 チョコレート1枚
西暦 金額 備考 1950年 222円 板チョコ375g 1952年 416円 板チョコ375g 1956年 316円 板チョコ375g 1957年 20円 板チョコ20g 1965年 50円 ミルクチョコレート54g 1974年 67円 39g 1975年 94円 50g 1978年 221円 38~50g 1989年 192円 38~50g 2002年 97円 70g 2010年 93円 58g
商品名で言えば、価格データの大半が「明治ミルクチョコレート」または「明治ミルクチョコレート デラックス」になります。
物価の変動に触れていませんので、同じ「円」でも価値が違います。その辺は、あしからず。
同じチョコレートでも、1956年までは明治印の板チョコ375gが指標です。1957~1961年は明治印の20g、1962年からは明治ミルクチョコレートの20gになり、1965年から明治ミルクチョコレートデラックスの54gに。1970年からはデラックスが45gになって、1973年からは43gに減り、1974年には39gまで減量……。
かと思えば1975年から50gになり、1976年には52gに増量。1978年から1998年は、38~50gの明治、森永、ロッテのチョコを基準にしています。
増量と減量の繰り返しなので、基準がブレブレ……。貨幣価値の変化も相まって、思ったほど参考にはならないデータですが、「手を出しやすい価格になってきた」と言えるでしょう。
コンテナ船の出航
最初のコンテナ船「SS Ideal X」が出航したのは、1956年でした。
このとき、既にコンテナは北米やヨーロッパで普及していましたが、「コンテナリゼーション」の概念は皆無。
この最初のコンテナ船にしても、世界大戦時の船を改造したもので、コンテナ専用に作ったものではありません。
しかも、このときの航路はニュージャージー州ニューアーク港からヒューストンという国内便。飛行機で4時間、車で24時間の距離です。
そこから多くの年月を経て、コンテナ船は巨大化し、より多くの荷物を運ぶことでコストを削減し、流通に革命を起こすことになったのです。
チョコレートが「手を出しやすい価格になってきた」要因の一つに、輸送コストが下がったこともあるでしょう。
ちなみに、この「SS Ideal X」の持ち主は、マルコム・パーセル・マクリーン。トラック一台から身を起こしたトラック野郎です。そして、アメリカ初の「レバレッジド・バイアウト(LBO:Leveraged Buyout)」をした人。非常にドラマチックな人生を送った人と言えるでしょう。
定規格のコンテナに貨物を積み込み、コンテナごと運ぶ輸送体系
買収先企業の資産を担保に、買収資金を借り入れる企業買収
コンテナ船の大型化は大きく進展しており、既に約260隻の超大型コンテナ船(8,000TEU積み以上)が就航している。今後も、約200隻が建造予定であり、輸送コスト削減に向けて、船型のさらなる大型化が進展していくことが予想される
Twenty-foot Equivalent Unit
20フィートコンテナ換算
コンテナ船の輸送費用
電球が発明されてから、それが普及するまでに数十年以上かかったように、コンテナ船の普及も時間がかかりました。
輸送を効率化するには、コンテナの規格統一が必要ですし、大型のコンテナ船が入るには、それ相応の水深も必要です。
故に、パナマ運河を通過できる船の最大の大きさとして、パナマックス型がひとつの目安になっているのでしょう。
で、その輸送費用ですが、2020年1月7日更新の主要航路コンテナ運賃動向は次の通り。
CCC.INTRA-ASIA,SOUTH ASIA
積地 向け地 費用(US$) 横浜(日本) ジャカルタ(インドネシア) 590 US$(2019年 6月 20ft 前年比-10.6%)
「ジャカルタ-横浜」間のデータです。ジャカルタは、カカオ豆が栽培できるインドネシアの首都ですね。
2019年に、20ftコンテナの価格がもっとも安かった6月をチョイスしていますが、月によって費用は かなり変動しています。
1フィートは、12インチ。1インチは、25.4mm。1mm=0.001m。
フィートは、ftと表記されます。
2019年6月28日の為替相場は、104.79~110.59。「販売レート(円→外貨)」~「買取レート(外貨→円)」です。仲値は107.75円。
つまり、6mちょっとのコンテナを運ぶのに、63,572.5円かかったという話。前年比では、10%安くなっています。
高くなっている区間もありますが、少なくとも「横浜-ジャカルタ」間は下がっています。
20ftコンテナの最大重量は、20,320kg~24,000kg。24tです。6万ちょっとで、24tを運べるのは単純に凄いですね。これに関税がかかるとしても。
コンテナ輸送における重量制限
コンテナ/CONTAINER シャーシ / CHASSIS 最大重量 / MAX GROSS W/T 20FTコンテナ/20FT Container 2軸 / Twin-Axle 20,320kg 20FTコンテナ/20FT Container 3軸 / Tri-Axle 24,000kg
最後に
結論ありきで調べたわけじゃないので、「思っていたより高いな」とか、「いやいや安い」とか、「物価がわからないので、ピンと来ない」とか、色々とありましたが、商品価格に輸送コストが反映されにくいからこそ、安さが手に入るのは間違いないでしょう。
とはいえ、同じコンテナ輸送であっても、完成したチョコレートを運ぶとなると話は別。冷凍・冷蔵貨物の輸送は、特殊コンテナを使わないとダメでしょうし……。リーファーコンテナってヤツですね。