「美味しい」とは、何か?
簡単に「美味しい」という言葉を使います。でも、「美味しい」とは何でしょう? 科学的に説明できる状態でしょうか?
それを追求してみたページです。
「美味しい」の定義と「味覚」
「美味しい」を定義するにあたり、最初に検討すべきは「味覚」でしょうか。今のところ、味覚は「甘味」「酸味」「苦味」「塩味」「旨味」の5種類。研究途中の分野なので、いつの日か第6の味が加えられるかもしれません。
その候補に「辛味」をあげる人もいますが、「辛味は痛み」なので味覚じゃなくて痛覚。辛いもので気分が高揚する人がいるのは、カプサイシンなどによる脳内刺激で、アドレナリンが……以下略。ということで、味覚の話です。
まぁ、数十年前まで「舌の味覚地図」が教科書に載っていたくらいなので、誤った情報のままの人も多いでしょう、味覚に関しては。
味覚地図は、舌には それぞれの味だけを感じる箇所があるとするもの。酸っぱいものを酸味以外の箇所にのせれば、すぐに変な説だとわかるのに、どうして検証しなかったんですかね……。
この記事を書くにあたり、岩塩を舌の色んな箇所に置きましたが、どこに置いても しょっぱかったです。ただ、舐めた後に口を閉じてしまえば、同じ場所で感じている気になるかも。口を閉じないと、味わいづらいこともあって、その可能性は低くないでしょう。
味覚地図に関しては、「否定するのは誤りだ」と、逆張り系の記事で集客しているサイトもあります。何の専門家でもない個人のサイトですけど。
味を感じるのは、味蕾があるからだそうです。味蕾は、食べ物の味を感じる小さな器官こと。でもって、舌のどの箇所にある味蕾でも、5つの味を感じることが可能です。
5つの味の中では、旨味が最後に加えられた味覚になります。それまでは、1916年にドイツの心理学者ヘニングが提唱した「味の四面体」の4つ。
旨味成分は、グルタミン酸ナトリウムです。舌の味蕾にある感覚細胞に、グルタミン酸の受容体「うま味レセプター」が存在するのが、2000年に判明したとか。
端的に言えば、「味覚」における「美味しさ」は、この5つの味によるものと考えられます。チョコレートの場合は「甘味」と「苦味」がポイントでしょうか。5つの味を添加した「味覚検定チョコ」も、ありますけど……。
「味の素」などの商品名で一般家庭に広く普及しているうま味調味料(成分:L-グルタミン酸ナトリウム)は,東京帝国大学理学部化学科(現在の東京大学理学部化学科)の池田菊苗(きくなえ)教授により,1907年に発見されたものです。
2000 年米国の Chaudhari のグループがラットを用いた生理学的実験からうま味のレセプターを発見し,これまで「うま味」には無関 心とされていた海外においての発見は国内の味覚研究者にとってセンセーショナルなものとなった
引用元:日本冷凍空調学会
味覚の個人差
身体を動かす仕事をしている人は、汗をかくから塩分を摂りたがる。だから、食事は少し塩が多め……。そんな話を聞いたことは ないでしょうか。
そういった事例からも窺える「味覚の感度」の例として、下記の調査をご紹介します。
基本5味(塩味・甘味・酸味・苦味・うま味)それぞれに対し、5段階の濃度の水溶液を用意しました。これらを口に含んでもらい、味を感じるか否かを答えてもらうことで、基本5味の閾値範囲を調べました。
調査を通して、塩味・甘味・うま味の感度の低さ、食塩摂取量の多さ(多い人で1日20g以上摂取)、身体活動の日間変動の大きさなどが印象的でした。
「美味しい」の定義と「音」
「美味しい」は「味覚」だけで決まるものでは、ありません。「音」が味に影響を与えている話は、「ソニック・シーズニング(音の調味料)」や「多感覚知覚」で検索すると出てくるでしょう。
とはいえ、その関連性を示す論文は、あまり見つからないかも。まだまだ研究途中だからでしょうか。
「酸味」を判断できるのは、口にした物の腐り具合を知るために進化したから。そんな理屈で考えれば、「音」も「食べて大丈夫か」を知るための要素と言えなくもない。
腐った物は、食感が悪い。湿気ていれば、ぬちゃっ。乾いていれば、カリッ。カビが生えるのは湿気ている方なので、カリカリ音に好印象を抱くみたいな話です。
わかりやすいサンプルとして、カルビーの「無限咀嚼」というページを紹介します。聞くだけで美味しさを感じられ、「音」と「味」の関連性を実感できるかも。
チョコレートを甘くする曲
東京大学大学院情報理工学研究科 准教授の鳴海拓志氏によれば、同じチョコレートを食べても、聞いている曲によって次のような変化があるそうです。
引用元には、実験で使われた音源へのリンクがあるので、同じことを自宅で試すことが可能です。曲は『Rough Soundtrack(https://youtu.be/IODWVWXwzVA)』『Creamy soundtrack(https://youtu.be/fnW1u_GpHi0)』です。
- 高くてなめらかな曲は、甘みやクリーミーさが増す
- 低くて角ばった曲は、苦味を強く感じる
それらの研究結果によると、「高くて滑らかな音は甘味やクリーミーさを増し、低くて角張った音は苦味を強める」ということが分かっています。
「視覚」「嗅覚」「触感」
腐った物は、色や匂い、感触でも判断できます。腐った食品の色、漂う匂い、肌ざわり……。腐った物を思い浮かべれば、その特徴が「美味しさ」の真逆にある気がしてきます。
であれば、「美味しい」を「視覚」「嗅覚」「触感」で感じられても、不思議はない。先の「音」のように、味覚以外の「美味しい」要素に引きずられ、味の評価が変わってしまう……。
だから、「テクスチャー(texture)」が大事。テクスチャーは「質感」を意味する言葉で、いろんな物に使える便利さがあります。
このテクスチャーを追求する分野に、「食品物理学」があります。食べ物のテクスチャーは、物質の固さ、粘り気、水分含有量などに左右され、当然のように結晶構造も関わってきます。
結晶に関しては、下記リンク先にて。
色で、物の本質がわかる
「ピンク色が好きだから、ピンクを選ぶ」と聞くと、ただの好みのように聞こえてしまいます。ですが、色には「物の本質」を示す要素もあるのです。
色には、理由があります。
「空が青いのは、どうして?」
「それはね、青い光は強く散乱されるからだよ」
- 散乱は、直進する光が微粒子などにぶつかって起きる
- ぶつかった光は、進行方向を不規則に変える
- 可視光には、波長の長い赤から、短い紫まである
- 波長の短い光ほど、散乱されやすい
- 人間の目は、紫を感じにくい
「波長の短い光ほど、散乱されやすい」ので、大気中の微粒子によって散乱され、その散乱した光が周囲の微粒子によって散乱して……以下略。こうして空全体に広がると、昼間の空は青く見えるのです。
逆に朝夕は、太陽から光が届くまでの時間の関係で、青は散乱されきって、散乱しづらい赤が見えます。詳しいことは、先のリンク先にて。
ここで大事なのは、散乱の状態によって色が変わること。例えば牛乳は、いろんな波長の可視光を散乱させるので、白く見えています。
そんな散乱を起こせるだけ、粒子が大きい。この粒子が小さくなれば、青っぽい色になる……。
そう、色は粒子の状態を示す要素。だから、「色で、物の本質がわかる」のです。ここで言う本質とは粒子のこと。
ちなみに、牛乳の中で浮遊している乳脂肪の粒は、数百ナノメートル以上あります。肉眼では見えませんが、エマルションの中では比較的サイズは大きめ。エマルションに関しては、下記リンク先にて。
ナノは、十億分の一。0.000 000 001 倍。
マイクロは、百万分の一。0.000 001倍。
クロスモダリティ効果
上の動画は、クロスモダリティ効果を利用したVR体験の様子です。クロスモーダル効果、クロスモダリティー現象とも書かれますが、別々に分類される知覚が、互いに影響を及ぼし合う現象を指します。
動画の内容は、同じクッキーでも 大きく見せれば満腹感が得られ、小さく見せれば逆になるというもの。同様に、匂いを加えることで、味も変えられます。
つまり、味覚が「味のすべて」では ないということ……。
まとめ
人の活動には、エネルギーが必要です。
そのエネルギーは食事から……。
となれば、食事の重要性は言うまでもないこと。そして、エネルギーになるか否かの判断を五感を使って行い、「美味しい」と表現しているのだとしたら、カロリーを得て喜んでいる状態かもしれませんね、「美味しい」は。
カロリーが気になる人は、下の引用元の文章を踏まえたうえで、姉妹サイト「ダイエットめも」をご覧ください。
たんぱく質、脂質、炭水化物はエネルギー源となる栄養素です。各栄養素の摂取目標量は、エネルギー摂取量全体に対する各栄養素の占める割合(%エネルギー)で示されています。たんぱく質が13~20%エネルギー、脂質が20~30%エネルギー、炭水化物が50~65%エネルギーです。
チョコレートの味わい方
チョコレートのテイスティングについては、ヴァローナ ジャポン株式会社のサイトが参考になります。
まずは視覚から入り、艶、輝き、色を見ます。
次に、匂い。深く息を吸って、そのアロマで満たします。
指で細かく割って、その音を聞きます。適温で保存されているとパリッとするそうです。
そして、味覚。詳しくは、下記リンク先にて。