チョコレートの原材料

「原材料にあるカカオマスって何?」
そう訊かれて、すぐに答えられる人は、少ないかもしれません。カカオ豆は知ってるし、それがチョコレートになることも知っている。でも、カカオマスを説明できない。
そんなカカオマスを知ることで、チョコレートの見方が変わるかも……。
カカオの半分は、脂でできている
カカオの加工を難しくしているのは、その油脂量です。
コーヒー豆の脂肪分が重量の16%なのに対し、カカオ豆は45~55%が脂肪分です。つまり、「カカオの半分は、脂でできている」ということ。
コーヒーであれば、抽出時にフィルターなどが油脂を吸着するので、飲料として出すのが難しくありません。逆にカカオは、油脂の処理に手間がかかるので、他の材料を加えて調整しないと、口にするのが厳しいです。
加工のプロセス
植物の中には、収穫してすぐに食べられる物もありますが、カカオは発酵と乾燥という段階が必要です。その辺のことは、「カカオは、神々の食べ物だった」というページで解説しています。
発酵と乾燥の段階を経たカカオ豆は、以下のようなプロセスで、チョコレートへと変化します。
- 1.悪い豆やごみを取り除く
- 2.豆を砕いて、皮を取り除く。カカオニブの完成
- 3.カカオニブを炒る
- 4.カカオニブをすり潰す。カカオマスの完成
- 5.カカオマスを圧搾。ココアケーキとココアバターに分離
- 6.カカオマスに、ココアパウダー、砂糖、ミルクを混ぜる
- 7.専用機で長時間 練り上げる
- 8.温度調節して、ココアパウダーの結晶を安定化
- 9.冷やしてチョコレートを形成
見ての通り、工程が多いです。でも、これでチョコレートの原材料欄にあるカカオマスが何なのか、わかってもらえたことでしょう。ちなみに、圧搾前のカカオマスには、約55%の脂肪分が含まれています。
脂肪分が半分もあったら飲みにくいので、圧搾によって脂肪分であるココアバターと、それ以外の塊であるココアケーキに分離しています。このココアケーキを砕き、細かな粒子にしたのがココアパウダー。いわゆる“飲料用の粉末ココア”です。
このココアパウダーが多いほど、チョコレートの色が濃くなります。ホワイトチョコレートはココアバターを使いますが、ココアパウダーは使わないので白いですし、カカオの主成分であるテオブロミンも含まないとか。ココアパウダーが無い分、脂分は多くなるでしょう。ほかの原料は、砂糖や牛乳でしょうから。
序盤の工程にある「カカオニブ」を作るには、豆を砕いて、皮を取り除く必要があります。このとき活躍するのが「ウィノワー」と呼ばれる機械。この機械で風を吹き付け、殻を飛ばしてカカオニブにするのです。
ウィノワーは、カカオ豆選別機として販売されています。HIRATA103というモデルで、1台65万円でした。
上記のプロセスでは軽く流しましたが、カカオニブをすり潰しても、まだ粒子が粗いので「リファイナー」という機械で細かくします。その後、「コンチェ」という機械で練り上げます、丸一日ほど。コンチェに関しては、下記リンク先で書いています。
ココアバターの使い道

ココアケーキはココアパウダーになると知りました。では、圧搾によって絞り出した脂肪分「ココアバター」は、どうなるのか……。
化粧品や石鹸の原料になることもありますが、メジャーな用途はチョコレートの原料でしょう。人の体温に近い30~35℃で溶ける特質は、なめらかな口当たりを実現する最高の材料です。
ココアパウダー、砂糖、ミルクと一緒に、ココアバターもカカオマスと混ぜられ、精錬されているのです。
ただし、ココアバターの代用品として、ココナッツ油やパーム油が混ぜられ、「チョコレート」として売られていることが少なくありません。理由は、ココアバターは生産量が限られ、比較的高価なためです。
いろんな材料が添加されるので、チョコレート業界では、チョコレートの表示に関する規約を定めています。
※ 産地や種類によって違うでしょうが、ココアバターが溶ける温度は、28~33℃という話も。カカオの生育に適しているのは、平均気温が27℃以上の場所なので、この時点で冷蔵庫でもない限り“固まらない”のは明白。
画像のココアバターは、アメ横 大津屋というスパイス・豆の専門店で購入したもの。バターですが、チョコレートの匂いがしますし、触れたときの溶け具合もチョコレートそのもの。
チョコレートの規格

「名称:チョコレート」という表記の裏側にあるものを見ていきたいと思います。
なお、原材料の表示はJAS法と食品衛生法によって義務付けられていて、食品原材料を多い順に書いた後、添加物を多い順に書くことになっています。
チョコレートと準チョコレートの違い
チョコレートと準チョコレートの違いについて、江崎グリコでは下記のように書かれています。カカオ多めがチョコレート、少なめが準チョコレート。そんなところ。
「チョコレート」とはカカオ分が35%以上、あるいはカカオ分21%以上でカカオ分と乳固形分の合計が35%以上のチョコレート生地を全重量の60%以上使用したもののことです。
「準チョコレート」とはカカオ分が15%以上、あるいはカカオ分7%以上かつ乳固形分12.5%以上の準チョコレート生地を全重量の60%以上使用したもののことです。
カカオ分が35%以上で、その中にココアバターが18%以上含まれていれば、チョコレートです。このカカオの含有量が多いダーク・チョコレートが人気で、その代表格に「チョコレート効果」があります。ダーク・チョコレートはカカオマス40%以上が条件です。
ですが、パッケージにあるパーセント表示は、カカオマスとココアバターの総量ということも。そこにあるパーセンテージでは、カカオマスとココアバターの割合は不明です。
「チョコレート利用食品の表示に関する公正競争規約」は2018年9月14日に改正。猶予期間は、2020年3月31日まで。
チョコレートスプレッド・A:カカオマスが全重量の7%以上又はココアバターが全重量の4%以上のもの
チョコレートスプレッド・B:カカオ分が 3.5%以上又はココアバターが2%以上のもの。ただし、チョコレートスプレッド・Aに該当するものを除く
この規約において「カカオ分」とは、カカオニブ、カカオマス、ココアバター、ココアケーキ、ココアパウダー(香料その他のものを含まないもの)及びカカオエキスパウダーの水分を除いた合計量をいう
コーデックス国際規格

日本の規格は先の通りですが、コーデックス委員会で作られる食品の国際規格・基準があります。委員会の正式名称は、コーデックス・アリメンタリウス・コミッション(Codex Alimentarius Commission)で、略称はCAC。国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が共同で設立しています。
同じチョコレートであっても、その基準によって内容が異なる場合があるというのは、頭の片隅にでも置いておきましょう。画像は、「チュベ・ド・ショコラ」でチョコレートを購入した際に入っていたチラシです。
チョコレート(地域によりビタースイートチョコレート、セミ・スイートチョコレート、ダークチョコレートあるいは「フォンダン・ショコラ」の名称)は、乾物ベースで総カカオ固形分 35%以上、うちココアバターは 18%以上、無脂肪カカオ固形分 14%以上を含有するものとする。
クーベルチュールミルクチョコレートは、乾物ベースで、総カカオ固形分 25%以上(うち無脂カカオ固形分 2.5%以上)および乳固形分 14%以上(うち乳脂肪分 3.5%以上)を含有するものとする。
ココアバターに加えて植物油脂を使用するは、製品の名称および表示に関連したラベル上に示すものとする。